政治の焦点

政治の焦点(第8話)

いかにすれば経済は良くなるか

経済学者もわからない不況

現在日本が陥っている経済不況は、物価が持続的に下がっていくデフレ現象をはじめとして、極めて異常な事態である。当代一流の学者先生も、その原因については、諸説紛々で明快な処方箋が描ききれていない。

どう対応すべきか

しかし、その中でも私が強く共感した説は、中央公論11月号に掲載されている「野口悠紀雄」先生の論文である。その主旨は一言で言うと、「日本の再生に必要なのは、政府依存をやめて、民間企業の構造改革を進めることだ」ということにある。

先生曰く、「需要が弱いのは事実だ。しかし消費が伸びないのは、人々が将来の雇用と所得に不安を抱いているからである。また、投資が増えないのは、投資しても収益があがらないからである。」「その根底にあるのは、日本企業の収益力が低下し、将来に向けて回復の展望が開けないことだ。そしてそれをもたらしたのは、需要不足ではなく、経済の構造変化である」。

「基底にある変化は二つある。第一は、「(中国など)アジア諸国が工業化に成功し、日本製品と同質の製品をより安く生産できるようになったこと」である。二つ目はIT化であり、「これが新たな経済活動の可能性を開くとともに、在来型のビジネスモデルを陳腐化させ、産業活動の根本的な再編成を要求している」ことだ。そして「日本企業の多くは、このいずれの変化に対しても、適切に対応していない。」

「このような認識からすると、必要なのは財政拡大や金融緩和などの総需要政策ではない。」例えば「(減税などによって)所得が増えても貯蓄に回るし、金利が低下しても投資収益が低いから投資は増えない。…株価は将来の企業収益の反映にほかならないから、収益力が回復しない限り、証券税制をいくらいじくりまわしても、回復するはずがない。」「財政赤字についても…真の原因は税収の驚くべき減少である。例えば法人税収は、10年前に比べて実に半分程度にまで減っている。その原因は企業の収益力低下である。…企業収益の回復がないかぎり財政再建はありえないのである。」

そして、「他方で民間企業が、人員の削減、工場の閉鎖などを行っていることは事実だ。しかし、これらは多くの場合、後ろ向きの処理であり、単なる縮小均衡なのだ。それによって新しい条件下で収益をあげるビジネスが創造され、ポジティブな展望が開けることにはならない。」

その上で、「日本経済が抱える最大の問題」は、「企業が経済環境の変化に対応していないために、組織内にいる有能な人材が目標を喪失し、活躍の場を見出しえないのである。」従って、「重要なのは、組織に留まる優秀な人材に活躍の場を与えることなのである。」さらに「経営者の入れ替えが柔軟に行われれば、日本企業は蘇るだろう。それこそが日本経済に革命を起こし、日本経済の危機を救う。」

「この実現のためには、(株式や債券などの)市場のシグナルが企業の改革に圧力を加え、業績悪化企業の経営陣が退出せざるをえなくなる仕組みを確立する必要がある。そのためには、金融構造を直接金融中心の仕組みに改革する必要がある。」という主張である。

自由と創造こそ

私が注目している点は、経済も所詮人間が行うことであり、多くの日本企業では硬直的な思考の経営者がいつまでもあぐらをかいているために、組織の中に埋もれている優れた人材を活用できていないということだ。だから経済環境の変化に対応できないでいる。このことは、政党や官僚機構をはじめ、日本中のあらゆる組織において同じことが言えるだろう。

私はこのような野口先生の意見に、基本的に賛成である。郵政民営化をはじめとする政府の抜本的構造改革はもちろん必要である。しかしこれだけでは経済は良くならない。何と言っても、「企業自身の構造改革」が肝要である。

さらに言えば、日本人ひとり一人が眠っている能力を呼び覚まし、誰も考えつかなかったことを実行していくしかない。政府と民間のすべてに、「自由と創造」が求められている。もはや学歴主義・偏差値主義では役に立たない。共産主義・社会主義では当然ダメだ。終身雇用も年功序列も時代遅れだ。組織主義・全体主義も不要だ。私は真の能力主義こそ必要だと考えるものである。

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