それでも郵政民営化は必要だ

国会での採決がどうなろうとも私は郵政民営化は必要であると考える。
以下にその理由について述べてみたい。

1. 国家としての郵政3事業の歴史的役割は終わった。
 郵便貯金事業はご存知の通り、「富国強兵」を実現するため明治時代に創設されたものである。国民のお金を吸い上げて強い軍隊を創ることと、殖産興業がその目的であった。

 しかし太平洋戦争の敗北によって「強兵」の目的は一応終わったが、戦後復興のためにそれは維持された。郵便貯金や簡易保険のお金はほとんどが、旧大蔵省の資金運用部に集められ、特殊法人を通じて経済復興のための道路や橋、港湾、空港、鉄道などの基盤整備に使われてきた。これによって戦後の経済成長が成し遂げられたことは評価に値する。しかしながら、今ではこの仕組みが、逆に「官」による無駄遣いを招いていることが、昨今のマスコミ報道で明らかになっている。

 郵便事業にしても、民間の宅配業務を見てもわかるようにいつまでも国家が独占しなければならないような事業ではない。郵政3事業は、国家発展のために考案された一時期の便法であって、社会が成熟してくれば新たな方策が必要とされるのだ。もはや国家としての郵政3事業の歴史的役割は終わっていると見るのが正しいだろう。

2. 国民の大事な預貯金の使い道はこのままではいけない。
 郵政公社の貸借対照表をみると、郵便貯金に約220兆円、簡易保険に約120兆円、計約340兆円のお金が国民から預けられている。そこでこれらの資金が何に使われているかを見てみると、郵便貯金は約100兆円が国債や地方債に、約156兆円が預託金として道路公団や住宅金融公庫、都市再生機構、政府系金融機関などの特殊法人に貸付けられている。簡易保険では約82兆円がやはり国債、地方債、社債などの有価証券となっている。地方公共団体への貸付も約19兆円、金銭信託約12兆円となっている。

 このように国民の大事な預貯金が、国債などの政府保証債を購入するか、特殊法人に融資されているだけである。道路公団などでこれ以上道路や橋を作っても、利息分の収益が生み出されるとは思われない。また特殊法人向け融資のうち、不良債権化しているものがどれくらいあるか全く不明である。国債などは政府が元本と利息を保証するが、その原資は国民の税金ではないのか。国家の著しい経済成長がなければこれらは返済が困難になるではないか。社会基盤整備が一段落し、低成長の今日、郵政公社の資金運用は全く効率の悪い時代錯誤的なものと言える。民営化することでより良い投資先を選択できるようにすべきである。



3. 郵便貯金・簡易保険事業はいずれ国家を破綻させる。
 既に述べたように大量の国債の利息と元本を償還するために、国は毎年新たに国債を発行し続けねばならない状態に陥っている。郵貯や簡易保険は安全だからと言って国民は安易に預けるが、それを保証するために国は国債を大量発行しており、平成17年3月で既に626兆円の残高に達している。これらは将来の国民が税金で支払わなければならないのである。こんなことを続けていたら国家は破綻する。

4. 民営化によって消費者からの評価が必要だ。
 誰もこのようなことをいう人は無いが、私は民営化の大きなメリットは国民すなわち消費者による評価がなされることにあると考えている。

21世紀はあらゆる組織において、評価が必要であると思う。評価され、反省しない組織は必ず腐る。政治家は批判され、数年に一度選挙という国民からの厳しい評価が下されるから、民主主義は保たれている。公務員の世界はほとんど外部評価が無いから、肥大化しおかしな税金の使い方をしてしまう。郵政3事業も民営化して、国民の声をじっくりと聞き、国民のニーズを汲み上げ、国民のためになるお金の使い方をすべきである。

 郵政民営化は、明治以来の「国防・官僚主導国家」から21世紀の「自由と民主主義の国」日本へと転換する象徴的な構造改革であると思う。


5. 27万人の国家公務員が必要か。
 行政改革の時代である。身分保障された国家公務員が27万人どうしても必要であるとは思えない。しかし反対論者の真の理由は意外にこのあたりにあるのかもしれない。国家公務員であれば容易にリストラされないと思っているのだろうか。だとすれば自分のことしか考えていない反対論だと言われても仕方がない。

 郵便事業は既に赤字である。郵貯と簡保は今は黒字だが、金利が高くなってくると、現在のように低金利で集めて高金利の国債で儲けるということができなくなる。また、同業他社と比べ利益率が低く、公社としての法的・社会的制約の下では、中長期的には郵貯・簡保とも経営は苦しくなるだろう。

 そうなれば経営破綻によって税金を投入しなければならなくなり、国家公務員であろうとも強制的な人員削減に踏み切らねばならなくなる。そうなる前にむしろ早く民営化して良い会社にし、リストラを防ぐことが賢明な選択である。


6. 郵政事業も税金を納めるべきだ。  
 郵政公社は法人税・地方税など税制上の恩恵を受けている上に、郵便貯金は預金保険料も負担せずに政府保証を受けている。これらの恩典によって、ATMや振込み・送金の安い手数料が可能となっているとしたら、民間事業者にとっては著しく不公平だ。民営化によって税金も納め、預金保険料も支払うべきである。

7. 現在の郵便局ネットワークは民営化後も維持される。
 第3種、第4種郵便の割引・無料制度など社会貢献事業と、郵貯や簡保の金融サービスを維持するため「社会・地域貢献基金」が2兆円の規模で創設される。これによって過疎地などで身近な郵便局が急になくなることはない。全国どこでも確実に配達されている郵便サービスも持続される。これらはJRなどの民営化に伴うマイナス面を十分に考慮して設計されたものである。

 いずれにしても、何の努力もなく永久に現在の権益が守られる事はあり得ない。国家事業として歴史的使命を終えた郵政3事業は、一刻も早く決断し民営化に踏み切るべきである。



以上


BACKNEXT