創造的・多元的価値教育

去る 2005 年 5 月 17 日に、公明党京都市会議員団として「『心の教育』への提言・新しい時代の創造的・多元的価値教育へのアプローチ」と題した提言を行いました。今回はこの提言のポイントについて解説致します ( 提言の全文は公明党京都市会議員団のホームページをご覧下さい ) 。

近年、子ども達の成長過程で発生している、いじめ、登校拒否、援助交際、引きこもり、ニート(勉強する気も働く気もない者)、また非行や凶悪犯罪といった諸問題や、さらにはいわゆる高学歴のエリートたちの犯罪の多発の原因が、「教育の精神的空白」にあるのではないかと疑われています。もちろんこれらの問題の背景には複雑な社会・経済的要因も指摘されていますが、私たちは「教育の精神的空白論」は重大な原因であると考えています。

宗教学者の山折哲雄先生は、戦後教育の「二重の空白論」を指摘されています。すなわち、第一の精神的空白は戦前の天皇制・国家神道が、戦後「象徴天皇制」へと転換されたこと。第二の空白は、教育基本法において、「公」教育では「特定の宗教」を教えないこととしたことです。

これによって、戦後の「公」教育はもとより大半の私学においても、知識は教えるけれども、いかに生きるべきかの基準となる価値観については何も教えませんでした。戦前の反省から、個人がいかなる価値を選択すべきかについては個人の自由に任せた訳です。これは人間の生き方について意識の高い人々にとっては素晴らしいシステムですが、多くの人々にとってはせいぜい経済的に成功することが人生の目標となり、何が正しくて、何が悪なのか、また何が美しく、何が醜いのかさえもわからない状態におかれたのでした。

このような理由から、現在の「公」教育には「精神的空白」が存在していることは事実であり、何らかの対応が必要であることは間違いありません。従って私たちは「心の教育」は必要であると考えています。かといって、「公」が一定の価値観を示すことは信教の自由や思想信条の自由を侵すことは明らかですので、これを避ける方法を考案しなければなりません。

そこで今回の提言では、「心の教育」というものを、文学、自然科学、哲学、宗教などの多元的アプローチによって多様な価値観を学ぶことのできる「多元的価値教育」として改革する必要があると考えました。また、これまでのような一定の価値観を「教える」という考え方を捨て、子ども達が多様な価値観を「経験」する中で、自分の力で感じ考えながら価値観を形成していけるような「創造的価値教育」を目指すことと致しました。

さらに、このような「創造的・多元的価値教育」の実践にあたっては、教育学、文学、哲学、自然科学、宗教学、倫理学、心理学、社会学、政治学、経済学の専門家はもとより、親や生徒、学生を含む一般の人たちも関われるような開かれたシステムが不可欠であると提言しています。

もちろんこの「創造的・多元的価値教育」の実践が極めて困難であることは言うまでもありません。しかし、価値観とは人間や人生・社会を総合的に評価するものであり、これ無くしてはいきあたりばったりの無軌道な人生や社会になってしまいます。

したがって、人類が過去の戦争などの失敗を深く学び、将来にわたって価値観の異なる民族や国家が平和で、共存共栄していける叡智を創出するために、「創造的・多元的価値教育」に取り組まなければならないと考えています。これこそ本当の意味での抜本的教育改革であると思う次第です。

以上



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