政治の焦点

政治の焦点

北朝鮮のミサイル発射問題を考える。

私のまったく個人的見解を述べさせて頂く。北朝鮮が言うような人工衛星の発射であったとすれば、それは失敗に終わったことが明白である。何故なら、軌道上に乗った物体はないことが確認されているからだ。北朝鮮としては世界に大恥をかいたことになる。また人工衛星が搭載されていなかったのであれば、長距離弾道ミサイルの発射実験を行ったことになる。

 北朝鮮の狙いは、米国を直接交渉に引き出し、見せかけのカードを一枚一枚切りながら、経済的支援を獲得するというものだ。クリントン政権の時代に、核開発凍結の見返りに米国から200万キロワットの軽水炉二基と、完成までの重油を勝ち取った実績があり、今回もオバマ政権の出方を伺っていると言えよう。

 まず、日本側からすれば、完全に見くびられた行動である。ミサイル実験を他国の上空を使って行うことなどあり得ない話だ。中国やロシアが日本の立場ならば、ほとんど戦争状態になるくらい怒るのではないか。とは言うものの、日本は感情的なナショナリズムを扇動してはならない。冷静に、今回の発射が国連安保理決議に違反し、平和と安定を脅かす暴挙であることを国際社会に訴えていく必要がある。同時に、北朝鮮に新たな制裁を課す新安保理決議の採択に努力すべきである。すでにその方向で政府も動いている。

 ところが、中国とロシアは北朝鮮に圧力をかけることに慎重であるという。もちろんこれまでの経緯から、両国が北朝鮮と深い関係にあることは知られている。しかし、理由はそれだけでもなさそうだ。私は、両国の歴史的膨張主義にあるとみる。米国の軍事的覇権に対する牽制がそこにあるのではないか。いずれ北朝鮮が崩壊するとしても、その場合にどの陣営が取り込むかという戦略的思惑がある。すでに世界の覇権をかけた火花が散っている。それは、北朝鮮の行動が正しいか、正しくないかの問題ではない。国際政治の力学の前には、正義は後ろに追いやられるのが現実だ。

 では、これから北朝鮮にどう対応すべきなのか。多くの議論が交わされている。確かに、中ロの国際政治の力学の前には正義はむなしくみえるが、それでも、日本は国連を通じて世界に正義を訴え続けることが肝要だ。国連は安保理常任理事国だけではない。非常任理事国もあれば、総会という手段もある。暴力という恫喝によって金を得るという無法を、世界は決して許してはならない。そういう国際世論を喚起する努力を怠ってはならない。正義の旗を振り続けなければならない。

 その上で大事なことは、北朝鮮を孤立化させることである。相手にして欲しいのは向こうなのである。こういう時には、まともに相手にされないことほどつらいことはない。従って、米国は北朝鮮との直接交渉には乗り出すべきではない。あくまでも挑発には乗らないことだ。現在停止されている六カ国協議も無理して開く必要もないだろう。

 そうすると恐らく北朝鮮は、核実験の再開などでエスカレートしてくるに違いない。また核の輸出もやろうとするかもしれない。しかし、その段階に至れば、今度は中国とロシアがだまってはいない。彼らの本音は、北朝鮮の安楽死とその後の取り込みにあるからである。彼らは核保有した北朝鮮など絶対に許さない。その時点ではじめて安保理は正常に作動するに違いない。六カ国協議も真に有効なものとして機能する。ポイントは、中国とロシアに主導権を持たせメリットを与える代わりに、その責任をとらせることだ。北朝鮮はもともと彼らの陣営なのだから。

 いずれにしても北朝鮮問題の解決には、英知と軍事力だけではなく、忍耐と時間を必要とするのである。

つづく

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