政治の焦点

政治の焦点

〜最大の景気対策は政権交代ではない。

9月から11月上旬までの私の訪問対話数は2,000件を超えた。この間、50回以上の語る会や演説会をこなしてきた。全体的な特徴としては、「一度政権を民主党に託してみたら」という傾向は確かにある。他方で、「本当に民主党に任せて大丈夫か」という不安をもつ方も多い。つまり、この二つの考え方の間で揺れ動いているというのが現在の民意だろう。

 もちろん、現在の自公政権に不満を感じている人が多いことも事実である。その原因の第一は、経済の状況が悪く、国民の間に格差感が出始めていることだ。このような時代は政権与党に対する批判となって表れやすい。第二に、自民党の族議員と官僚が結びついてなかなか国民本位の改革が進んでいないのではないかという疑問だ。第三は、麻生総理自身の誤解を招く発言とともに、自民党内の一部に勝手な発言が多いために自民党の統治能力に不満がでているからだろう。

 他方、民主党は天下をとるために、かなり過激な政策を打ち出している。相当危うい大衆迎合主義ともいうべきものである。まず「子ども手当一人年間26,000円支給」。これは公明党の児童手当のものまねであるが、その財源は約5兆円。その実現のために、配偶者控除や扶養控除などを廃止するという。しかしこれでは増税になるばかりか、さらに、医療保険料、介護保険料、年金保険料などの引き上げにつながり、国民生活への重大な影響がある。

 また、医療の分野では民主党は、国民健康保険と政府管掌保険、組合健保の統合を主張しているが、2003年に同様の一元化を実現した韓国では大変な混乱状態に陥っている。韓国では職域と地域の保健制度があったが、これを統合したために、保険料金の決定が一組合の問題から国家的な問題となり、給付費に見合った保険料引き上げが困難となった。すなわち、保険財政の状況が悪くても政治状況が悪ければ引き上げができず、かえって財政危機を招いたのである。

 民主党は年金については、基礎年金を現在の社会保険方式を廃止して、消費税による税方式に切り替えるとしている。すなわち、国民からは保険料を徴収するのを止めて、消費税でその財源をまかなうという。しかし、これこそ国をあげての大混乱をもたらすことになるだろう。先進諸国の多くは社会保険方式であり、これを税方式に切り替えた国はない。それは以前から述べているように、大幅な消費税アップにつながるからである。

 たとえば、制度を切り替えた時に、すでに40年間保険料を納め終わった人も、全く保険料を払っていない人も、同じ基礎年金額になるなら、これほどの不公平はない。これを解決するには保険料納付期間・額に応じて年金額を上乗せするしかなく、そのためには消費税をどんどん上げる必要がある。しかも、その切り替えの事務手続きは極めて煩雑、かつ40年の歳月を要するからだ。

 民主党は小沢代表や菅副代表に象徴されるように、現状の破壊は得意とするがその後にいかなる社会制度を建設するかは不明確である。私はかつて日本中で暴れまわっていた過激派学生を連想してしまう。参議院選挙で与党にお灸をすえるのは理解できるが、今の民主党に世の中をすべて任せた場合、とりかえしのつかない事態に陥るのではないか。危険である。彼らは政権交代こそ最大の景気対策だというが、私の予測ではその場合日本経済は崩壊すると思う。

 平成5年に自民党から細川連立政権へと政権交代した時のことを思い出して欲しい。当時細川総理は絶大な人気があったが、政治改革論議にのめり込み年末の予算編成を翌年に先送りしてまでして、小選挙区制の導入など選挙制度改革を実現した。しかし、その結果予算成立は大幅に遅れたうえ、その執行による景気対策が後手に回り経済の低迷が続くことになった。

 今回第二次補正予算の提出を優先すると、来年度予算の編成が明年にずれ込むことは明らかだ。12月の1か月間で補正予算の国会審議と予算編成・税制改正などをこなすことは、民主党の抵抗が無かったとしても物理的に不可能であるからだ。ならば、通常国会の召集を従来の1月下旬ではなく、1月冒頭に前倒しして補正予算と来年度予算を一気に審議することで、補正予算提出の遅れを取り戻せば良いのである。今、民主党の挑発に乗せられて補正予算審議にこだわると、来年度予算の成立ははるかに遅れ、かつてのように景気はそれこそ奈落の底となるであろう。

 最大の景気対策は、政権交代などではなく、今年度中に第二次補正予算と来年度予算を成立させることである。そのためには、まず国民の声によく耳を傾けすばやく手を打たねばならない。官僚任せではなく、政党主導で政策を実現するのだ。場合によっては民主党の意見でも良いものがあれば、それを取り入れる度量と柔軟性が必要だと考える。

つづく

BACKHOME