政治の焦点

政治の焦点(第28話)

歴史認識・東京裁判・靖国問題・戦争責任

現在自民党の総裁選との絡みで靖国神社をどうするかが焦点になっている。総裁選候補者たちは靖国問題を争点にしたくないようであるが、この問題は先の大戦に対する歴史認識と東京裁判をどう捉えるかということと密接な関係がある。日本の政治指導者にとって最も大事なことは、何故日本はあのような無謀な戦争をして国家を破滅させたのかについて徹底して考え抜くことであると思う。日本の命運を担う政治家達には、これらの点について国民の前で堂々の議論を展開してもらいたいと思う。
 
靖国神社の遊就館に代表される歴史認識とは「日本は米国に追い込まれ、自衛のために戦わざるを得なかった。その米国との戦いの中で先頭に立った当時の日本の指導者は神である」(中央公論2006.8 加藤紘一)というものである。

これに対し東京裁判はいくつかの問題点を孕みながらも、次のような歴史認識と解釈を下している。すなわち、「1931年の満州事変から1945年に至るまで、日本の戦争指導者が共同謀議を行って中国をはじめとするアジア諸国に侵略戦争を遂行した」というものである。日本は1951年にサンフランシスコ講和条約を締結し戦争を終結したが、この講和条約はA級戦犯に戦争責任があったとする東京裁判を日本が受諾する内容を含んでいるのである。

このような歴史を踏まえると、日本の総理大臣や重要閣僚が靖国神社に参拝することは、単純に心の問題とはみなされない。旧連合国側からは、東京裁判の歴史認識とサンフランシスコ講和条約を否定するかのような行動に見えるだろう。旧日本軍に1,000万人以上ともいわれる国民を殺傷された中国の立場からするとなおさらである。

「終戦の際、中国で武装解除した日本兵は官兵管理所に収容された。ロシアでは強制収用所で5万人の日本兵が死んだというが、中国においてはトップの(日本の)将軍を除いて無事に帰還した。収容所での強制的な使役もなく、1年間順番を待って船で帰ってきた。それは、中国共産党も蒋介石の国民党も、過去の戦争は一部の軍国主義者に責任があり、国民や一般の兵卒には責任がないとの認識だったからだ」(公明2006.8 田中均)。これは東京裁判を先取りした考え方であり、その後1972年に日中平和友好条約を締結した時の周恩来もほぼ同じことを述べた上で、日本に対する賠償請求を放棄しているのである。これまでも中国が、何度も日本の総理の靖国参拝中止を強く求めていることを内政干渉だとして憤る勢力もあるが、過去の歴史や経緯からすると筋の通った主張といえる。

自民党では、(1)靖国神社を国営の施設にして非宗教法人化する。(2)靖国神社にA級戦犯を自主的に分祠してもらう。(3)新しい国立の追悼施設を作る。などが検討されているというが、総裁選では先の大戦の総括を含めて国民の前できちんと議論すべきである。公明党は基本的には先の大戦は侵略戦争であったと認識しており、その深い反省に基づいて作られた日本国憲法の政教分離規定から総理の靖国参拝は違憲の疑いがある。従って新しい国立の追悼施設を建設すべきであると考えている。
 
つづく。

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