政治の焦点

政治の焦点(第36話)

東京都知事選「首都移転」が争点であるべきだ。

統一地方選挙の最大の焦点は、東京都知事選挙の動向であろう。民主党はこの都知事選挙に独自候補をたてて勝利し、7月の参議院選挙に大きくはずみをつけたい狙いがあるようだが、今のところ擁立できていない。石原現都知事に対抗できる有力候補は無党派を志向しているので、民主党はしきりに支援の秋波を送っている模様だ。しかし、民主党のように、勝てそうな候補者を探して参院選挙に利用しようという思惑は、本質的なところで間違っていると思う。都知事選の最も大事な意義は、都民の幸福増進を如何にして図るか、また、日本の首都のあり方が日本の未来を形作るということについて、論戦を戦わせることにある。従って、民主党が独自候補を擁立したいのであれば、民主党が都民のために、日本のために東京をどう変えようとしているのかを、まず明確にすべきではないか。民主党内では、都知事といえども政権奪取のための単なる道具にすぎないことが解っているから、菅直人氏をはじめとする党内国会議員が誰も出馬しようとしないのである。

 さて、私は真に都民の幸福を考えるならば、「首都移転」という公約を掲げる候補者があっても良いのではないかと思う。こんなことを言うと顔を真っ赤にして怒られるか、一笑に付されるかのどちらかであろうが、歴史的・文明論的に考察するならば、このことが日本の大改革にはずみをつける最も良い選択肢であると確信する。

 1869年に行われた京都から東京への遷都は、徳川幕府を倒した明治政府が、天皇を君主とする中央集権国家を樹立するために不可欠の事業であった。その後日本は、富国強兵の近代国家として着実に発展を続けたものの、相次ぐ侵略戦争の結果ついに太平洋戦争に敗北するに至った。しかし、戦後も国民主権の名のもとで中央集権体制は温存され、政・官・財の強固な連携により驚くべき経済成長を遂げ、GNP世界第2位の経済大国となったことは周知のとおりである。しかし、現在その反動として、行き過ぎた官僚主導体制、人・モノ・金の東京一極集中、地方の疲弊、環境の著しい悪化、等々多くの弊害が現れていることも紛れも無い事実なのである。

 東京で功なり名を遂げたいわゆる勝ち組にとっては、東京ほど良い場所はないであろう。しかし、大半の人々にとっては、東京は仕事を得るためやむなく出てきた場所であり、人口と企業の過剰な集中による交通停滞・通勤地獄・土地や住宅の高騰・空気の汚染、車の排ガスやエアコンの廃熱等による温暖化の著しい進行と都心部の異常気象など、どう見ても非人間的な暮らしを強いられている。また、余りにも大都会となった東京では、地域が崩壊しており健全に子どもを育てることが困難にさえなっている。さらに、大地震や戦争など万一の事態にあっては、国家機能の極端な集中は危険過ぎる。

 明治維新によって近代日本が幕開けしてから、まもなく140年が経とうとしているが、21世紀初頭の日本はもはや追いつけ追い越せ型の中央集権国家ではなく、成熟した分権国家へと変貌すべき時期を迎えていると思う。その改革の端緒となる象徴的な事業こそ「首都移転」である。あわせて、中央省庁の縮小再編と道州制をはじめとする地方分権改革を大胆に進め、権力、人材、金、情報等の移動を進めるべきである。今回の都知事選には、かつて徳川幕府最後の将軍として、大政奉還を成し遂げた徳川慶喜以上に歴史観・文明観があり、都民と日本の未来のために大英断を下せる人物を選んで頂きたいと願うものである。

以 上

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