政治の焦点

政治の焦点(第33話)

フリーター・ニート・児童虐待・格差社会の是正

京都大学教授の橘木俊詔氏は、その著書「格差社会」(岩波新書)の中で、「2004年の日本の貧困率(その国の平均的な所得の50%以下の所得しかない人の比率)は、先進国中アメリカ17.1%、アイルランド15.4%に次いで、15.3%の第3位という驚くべき数字である。しかも富裕層と貧困層の格差が広がっており、特に母子家庭、高齢単身者、若者の貧困率が高く深刻な状況にある。」(主旨)ことを指摘している。

 400万人を超えると言われるフリーターや60万人ものニートの存在は、格差社会の象徴と言える。また報道されている児童虐待の多くが母子家庭に同居する男性によるものであることは、虐待は親のエゴが直接の原因であるものの、母子家庭の生活の厳しさが根底にあることを示している。さらに、同居男性が収入が少なく怨恨感情を募らせている場合など、そのはけ口として自分より弱い者を痛めつける傾向があるのではないだろうか。

 人間の能力には差があるので「上層と下層の差の存在を認めつつ」、しかし「下層が全員貧困でなくなるためにはどうすればよいか」という橘木教授の思想に、私は賛意を表したい。かつ、階層が固定化しないように、あらゆる人に能力開発の機会が平等に与えられる社会が望ましい。公明党としては、そのような観点から「格差社会の是正」に取り組んでいる。

 その意味ではこれまで公明党が推進してきた「奨学金制度の充実」は正鵠を得た政策だ。2006年度の貸与枠は109万人余りで、希望者のほぼ全員が借りられる制度になった。加えて入学資金や海外留学を対象とした奨学金も実現した。公明党は今後さらに奨学金の拡充を行い、有利子奨学金は現在1カ月10万円が上限だが、これを12万円に引き上げることや、返還時の税制優遇制度の創設を検討している。

 同教授が指摘する農業、工業、商業などの「職業教育の充実」も重要である。同教授の調査によると「普通科の中でも進学校でもないような学校の出身者が、フリーターとなっている例が多い」。それは「普通科が大学進学を目的とした教育になっている場合が少なくないから」であり、「そこから落ちこぼれてしまった生徒には、何らのケアがなされない場合が多い」という。同時に「普通科における職業教育の不在も指摘できる」「大学に進学するわけでもない、かといって、社会ですぐに役立てるような技能もない。そうした若者が、ニートやフリーターになるのはある意味で当然の流れでもある」と述べる。

 さらに、同教授は「少人数教育の実現、教員の増加、あるいは優秀な教員が集まってくるためのシステムづくり」など「公立学校を充実させる政策が必要」と説く。まったくそのとおりである。公明党は、経済的な理由から塾に通えない子どもたちの学力アップのために、公立の小中学校の「放課後・土日学校」を開設し、教員、教員OB、地域ボランティアによる無料の補修授業を実施したいと考えている。また、教員を支えるスタッフの充実も図りたい。

 既存のフリーター対策としては、イギリスのブレア政権が行った「ニューディール政策」と言われる政策を橘木教授は紹介している。「イギリスにおける職業安定機構がアドバイザーとして、無職の人やパートタイマーなどに対して面接を重ね、どれだけの訓練が必要なのか、ふさわしい職業などを認識し、訓練の決定や職を斡旋したりする。職業訓練は国の費用で賄う。この制度を導入しイギリスでは成功を収めた」(主旨)という。日本にもこのような雇用政策が必要である。公明党としては、年長フリーターなどの若者の正規雇用化を進めるため、正社員に転換した中小企業などに対する助成金支給や、雇用保険料の事業主負担分の軽減などの労働法制の見直しも検討していく予定だ。

 公明党はさらに最低賃金法も見直し、各都道府県の地域別最低賃金を適正水準まで引き上げることをめざしている。この点について橘木教授は、「最低賃金制度と生活保護制度の逆転現象さえ起こっている」と指摘し、最低賃金制度の充実のためには、まず「労働分配率(企業の生産活動により発生した付加価値のうち労働者に回す比率)を引き上げるべき」と言う。わかり易く言えば賃金を引上げることであるが、その場合に「高賃金にいる人にはある程度犠牲になってもらい、積極的に低所得者の分配率を上げ、最低賃金の上昇へつなげるべき」と主張する。日本経済新聞も11/27付の社説で「賃金出し惜しみの構造をどう脱するか」という見出しで「雇用者への適正な分配のあり方を、あらためて考えるべきときである」と述べているのである。

以 上

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