政治の焦点

政治の焦点(第32話)

平成の宰相論〜自民党総裁選から考える(2)

自民党総裁選もいよいよ終盤にさしかかってきた。天下の重要課題は議論百出ではあるが、どうも課題の優先順位が明確でなく、どれから着手しようとするのかはっきりしない。私は外交・防衛と経済問題が国政の二本柱であると考えている。なぜなら、他国から侵略されることなく国民が安心して眠ることができ、かつ食べていけるというのが、古今東西国家経営の基本であるからである。その観点からすると、「中国・韓国との関係改善・強化、三国経済圏の発展」が最重要政策であると考えている。

他にも今提出されている論点は、持続的な経済成長実現の方途、700兆円を超える借金財政をどうするか、行政改革で政府の無駄を削る、年金・医療・介護などの社会保障制度改革、少子化対策、格差社会への対応、道州制の導入など地方主権の確立、教育改革、憲法改正など実に多彩である。しかし、憲法も教育もその根幹は国民主権・基本的人権の尊重・平和主義として揺ぎの無いものであり、多少枝葉の改正論議はあるにせよ、それは国家の本質部分ではない。その他の指摘されている課題もほとんどは経済問題と密接に結びついている。経済問題と外交防衛の両方にかかわる問題は実は、日中・日韓問題なのである。

バブル崩壊後の膨大な不良債権問題に目途がつき、デフレ脱却がようやく定着、経済も持続的な回復傾向にあると言われるが、その最大の牽引力となったのは中国のめざましい発展であった。もちろん、小泉総理の旗振りで構造改革路線が推し進められ、低金利政策のもと民間企業も国民も血のにじむようなリストラを耐え忍んできたことは事実である。しかし、それだけではない。やはり中国特需ともいうべき巨大な市場の登場が日本経済を救った面が大きい。確かに中国のために日本の産業構造が空洞化したという側面もあるが、しかしそれ以上に鉄鋼をはじめとする素材産業、機械製造装置や部品の輸出増加などにより、いまや対中貿易額は対米貿易額を上回り約25兆円にものぼっている。

「失われた十年」と言われる経済不況の間に、大量のフリーターやニート問題が発生した。また多くの若者に安定した正社員としての職場が提供できなかったことが、晩婚化・非婚化を進め出生率低下に拍車をかけたという分析もある。年金や医療の保険料未納率が高まっていったのもほぼこの時代である。従って今後の経済成長によって時間のずれはあるものの、恐らくこれらの問題はマクロ的には解消に向かうと思われる。その成長を持続的なものにする大きな要因こそ、中国・韓国との関係の改善・強化である。そして日本・中国・韓国の三国経済圏の発展、さらにアセアン諸国、インド、オーストラリア、ニュージーランドを含めた巨大な経済圏、東アジア共同体の確立こそが、世界の歴史を大きく塗り替えることになるだろう。民間の人々はこんなことはとうの昔からわかっていて事実上走り出しているが、小泉総理の靖国神社参拝がこれに水をさした。

日本の多くの保守政治家のアキレス腱は歴史認識だ。正確に言うと、完全な真理としての歴史認識ではなく、歴史に対する政治的認識のことだ。これまでも何度も書いてきたように、「なぜ大日本帝国は滅んだか」は戦後の政治家がよくよく突き詰めるべき課題である。「大日本帝国の国策と戦争は間違っていなかった。ただ米国の物量に負けただけだ。」というような解答は、政治家としては失格だろう。植民地支配と侵略の事実という重い宿命を背負って、それから眼をそむけるのではなく、真正面から受け止め歴史の教訓として、中国や韓国と向き合っていくことがこれからの信頼醸成の糸口となる。

この大方針に沿って両国の首脳同士に信頼関係が構築されれば、日米安保同盟を機軸としつつ東アジアの安全保障に大きく寄与することになる。中国との東シナ海での油田開発問題、韓国との竹島をめぐる領土・経済水域問題について話し合いが前進する。さらに北朝鮮問題について大きく動き出すことになる。これはロシアとの領土交渉についても好影響を与えるに違いない。経済面では、中国は日本の省エネルギー技術、環境技術はどうしても必要になるだろう。韓国も日本文化の受け入れに前向きになると思われる。さらに、これらの三国にIT技術を生かした巨大な市場が新たに登場することになれば、日本も持続的な成長が可能になる。

その結果、国内的にも税収が増大し、財政問題も、社会保障問題も、少子化対策も、格差社会問題も解決の方向に動き出すと思われる。安倍氏は日中関係については「政経分離の原則」を主張されているが、これまでの日中の互恵関係を安定させるためには、むしろ「政経一体」であるべきだと思う。中国、韓国との関係を大切にすると、何よりも日本人に希望が見えてくるのである。平成の宰相の器量に期待する。

以上


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