【6.21公明新聞記事】 わかる経済Q&A
遅れる地籍調査/実施済みは約半分/災害復旧や街づくりの障害に

 人間と同じように、土地にも戸籍があります。それが地籍です。地籍を確定するために必要な作業が地籍調査ですが、わが国では、実施済みの土地はまだ半分にとどまっています。地籍が未整備なため、所有者間の紛争や、まちづくり、災害復旧の遅れなど、国民生活にも大きな影響があります。土地という限りある資源を、効率かつ有効に活用するために、地籍調査の迅速な実施は重要な課題です。

【写真】稲本事務局長(右端)と意見交換する竹内氏ら=8日 衆院第一議員会館

『太閤検地以来、手つかずの場所も』 Q 地籍調査とは何ですか。
A 地籍は所有者、地番、地目、面積、境界といった土地所有の基本情報から成り立っています。土地一筆(土地登記の単位)ごとに、これらを確定するため実施する調査や測量が地籍調査で、結果は地籍図と地籍簿にまとめられます。

Q わが国の地籍調査は、進ちょくが遅れていると聞きます。
A 地籍調査は1951年に開始され、2007年度末で、要調査面積のうち、調査が終わったのは48%にとどまっています。特に1平方キロ当たりの人口密度が4000人以上の人口集中地区(20%)、山林、原野などの林地(41%)で遅れが目立ちます【グラフ】。都道府県ごとのバラツキも大きく、進ちょく率が最高の沖縄県99%に対し、最低の大阪府はわずか4%です。
16世紀に、豊臣秀吉が行った「太閤検地」以後の実態が把握できていない土地も多くあると言われています。

Q なぜ地籍調査が必要なのですか。
A 地籍は土地に関する行政活動、経済活動の最も基本的な情報ですので、地籍調査の未実施は、さまざまな非効率やムダを引き起こします。
例えば、まちづくりです。道路や公園などの整備、市街地再開発事業のような面的開発では、土地の買収や交換が伴いますので、正確な地籍情報が欠かせません。東京の六本木ヒルズでは、約400筆あった境界の調査に4年間も費やされ、余分なコストがかかったと報告されています。
災害復旧にも影響があります。

Q どうしてですか。
A 地籍調査の未実施地域で、地震や土砂崩れなどの災害が起き、土地の形が変わったような場合、元の記録がないために境界確認などに時間をとられ、復旧が遅れることになるのです。阪神・淡路大震災では、地籍情報がないため、土地を担保にした住宅再建資金の借り入れができなかったという話もあります。
ほかに地籍調査の目的として、固定資産課税の適正化や地理情報システム(GIS)への活用などがあります。さらに、森林管理の適正化も重要です【別項参照】。

Q 土地所有者にとっても利点がありますか。
A もちろんです。土地境界をめぐる紛争を未然に防いだり、土地取引や相続の円滑化、登記費用の節減などを通じて、個人資産の保全にも役立つことになります。

Q 地籍調査が進ちょくしない理由は?
A 行政や住民に必要性が十分に理解されていないことや、予算や職員の確保が難しいことなどが指摘されています。また、都市部では権利関係が複雑なこと、林地では土地所有者が地元にいないことなども、この地域で特に遅れを生じさせる原因です。地籍調査は市町村等の自治事務ですが、担当者からは「実施体制を整備するための人件費補助が出ない」「財政悪化で着手に踏み切れない」などの声が出されています。

 『急速に失われていく物証と人証』
Q 積極的に後押しする政策が必要ですね。
A 地籍調査の実施が遅れるほど、土地の境界を示す目印(物証)や、境界に関する人の記憶(人証)が失われていきます。
先の通常国会では、地籍調査の迅速化を図るため、改正国土調査促進特別措置法など関連2法が成立し、公明党が審議を主導しました【インタビュー参照】。

『水源林の保全が急務/東京財団が報告書で警鐘』
『甘い土地規制 外資の進出に懸念』

水資源の世界的な争奪競争を背景に、外国資本によるわが国の山林買収が急増――。民間シンクタンクの東京財団は、「グローバル化する国土資源(土・緑・水)と土地制度の盲点」と題する報告書で、地籍の確定や山林売買の透明化など、資源を守るための制度づくりを急ぐよう提言しています。
国土交通省統計によると、山林部の土地売買(都市計画区域外での5ヘクタール以上の取引)の面積は、1999年には1万3968ヘクタールでしたが、2008年には3万2317ヘクタールと倍増。同報告書はその要因として、水需要の逼迫化を背景とした、中国など外国資本による水源林確保の動きや、CO2(二酸化炭素)排出権取引を見越した先行投資の可能性があると推測しています。
森林や水資源は、国民生活に不可欠なインフラ(基盤)。売買には安全保障の観点から慎重な対応が必要ですが、わが国には土地所有規制などのルールがないと、同報告書は指摘します。地籍があいまいで、所有権の移転が十分に把握できないことも課題といいます。乱伐や水源汚染など、住民の安全・安心にかかわる環境悪化が起きてから、森林保全に着手しても手遅れです。
これらを踏まえ、同報告書は、水源林を保全するための方策として、

(1)地籍調査の加速化による全森林の境界域の確定
(2)山林売買を行うオープンな新市場の創設
(3)国土利用計画法による売買規制と公有林化――を提言しています。

 改正国土調査促進特措法などが成立――
     竹内譲・党国土交通部会長に聞く

10年に1度の機会を生かす 自治体は積極対応を 公明が主導、付帯決議も 通常国会で改正された国土調査促進特別措置法と国土調査法の内容、法案審議を終始主導した公明党の役割について、竹内譲国土交通部会長(衆院議員)に聞きました。

【写真】インタビューに答える竹内氏

――改正法の目的は何ですか。
竹内譲国土交通部会長 地籍調査を、都市部や山林で重点的に進めることです。地籍調査は、特にこれら両地域で遅れており、私の住む京都市のように0%と未着手の自治体も多く残されています。これが、都市再開発や森林整備が遅れる原因になっているのです。

――改正法の主な内容は?
竹内 1つは、都市部において官民境界情報の整備を促進したり、山村部の境界情報を保全するための基礎的調査を実施することです。2つ目は民間活力の導入。地籍調査の進ちょくを図るため、自治体が調査・測量などを、土地家屋調査士など民間に委託できるようにしたことです。

――法案審査で、公明党の果たした役割は。
竹内 この法律は、今年度からの第6次国土調査事業10カ年計画の基礎となるもので、今回の機会を逃すと地籍調査を促進する次の論議は10年後になってしまいます。 地味な法律のためか、他党はあまり関心を払いませんでしたが、公明党は審議をリード。法律の運用が適切に行われるよう、「毎年度の進ちょく情報の公表」「民間委託の積極的な活用を図る」など、7項目の付帯決議を行いました。

――地籍調査の進ちょくは、
      実際に事業を受け持つ市町村の動向にかかっています。

竹内 市町村が主体性の発揮することが何よりも重要です。 財源面でも、特別交付税により、市町村の負担は実質5%と軽くなっています。法改正で導入された、都市部での官民境界情報整備のための調査などにも、国の予算が手当てされています。法案審議で私は国交省側から、「経費に関する自治体の相談に柔軟に応じる」という趣旨の答弁を引き出しました。 地籍調査は自治体が将来へ向けて発展していくための基礎です。首長がこうしたリーダーシップを発揮することが不可欠でしょう。

以上

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