伝統産業国際学校創設について

伝統産業の後継者育成および技術伝承についてお伺い致します。

ご承知のとおり、京都はわが国の伝統産業のメッカであります。21世紀を目前にしてグローバルスタンダードのもとに、アメリカ文化の巨大なうねりが再び日本を襲っておりますが、にもかかわらず、日本が世界に誇ることのできる文化を保持しているのはまさに京都であり、その京都を支えてきたのが伝統産業であります。 しかし残念ながら京都の伝統産業はバブル崩壊以降、極めて厳しい状況に追い込まれております。それはこれまで日本経済をリードしてきた金融セクターの不安定化、産業全体の供給力過剰など戦後日本のまさに総決算が余儀なくされていることが根本にあることは言うまでもありません。そのうえで伝統産業においては、需要と供給の両面からの
構造的な問題を抱えているわけであります。従いまして、一口に伝統産業の活性化と申しましても容易ならざる事態に立ち至っているのであります。

このような認識に立って、現在業界の皆様が懸命に構造改革に取り組んでおられるわけでありますが、我々政治・行政に携わるものも、従来のように融資や補助金、減税といった手法だけではなく、これに加えて伝統技術の保存・後継者の育成という観点からも支援すべきであると考えるものであります。そこで私が提言致しますのは、伝統産業技術の伝承・後継者育成のための国際学校の創設であります。それは伝統産業を市場原理だけに委ねていては、間違いなく日本の伝統技術の大半が消滅し、それはとりもなおさず日本文化の崩壊を意味するからであります。

従来の伝統産業技術の伝承・後継者育成は「徒弟制度」であり、それは「見よう見まねで技術を盗め」というものでありました。しかしそれでは技術の習得に時間がかかるほか、技術の範囲が限定されるおそれがあります。講義と実習を組み合わせた論理的で体系的なカリキュラムの中で技術の全体像を把握し、学習の質と能率をあげることが必要です。

また伝統産業の制作者に求められるのは、優れた技術のみならず、社会の動きを調べて製品づくりに生かすマーケティング能力や時代の流れを形に表現するデ
ザイン能力も欠かせないものになっていると考えます。その意味で伝統の技術と現代的センスを兼ね備えた人材の育成が急務であります。この学校は京都のみならず、全国からもまた世界からも広く生徒を受け入れることが肝要であります。実はこの国際性ということが一番大事なことで、狭い日本だけを見ているとこんな学校を出ても仕事がないだろうなどと推測しがちなのでありますが、世界には日本の伝統技術を学び、
それを是非新しいアート(芸術)や仕事に生かしたいという人はいくらでもいるわけです。この学校のことをインターネットで流していくだけでも否応無しに関心は高まるでしょう。

実はこの発想に基づいて園部町に立派な「京都伝統工芸専門学校」が設立されております。但しそこで学べる技術は、京仏壇・京仏具、京石工芸、京扇子・京うちわ、京指物、京漆器、京人形、金属工芸、竹材・竹工芸、京焼・清水焼に限定されています。西陣織や京友禅など多くの主要な伝統産業は未だに放置されたままであります。是非とも京都市内においてもこのような伝統産業の後継者育成と技術伝承のための国際学校の設立が望まれます。もちろん学校づくりには京都市だけではなく、国や京都府の支援が必要であると想定されます。しかし京都府の全産業のうち伝統産業に従事する人の割合は約6割にのぼり、工場の数ではなんと約8割を占めるという実態を鑑みたならば、将来のビジョンとして京都市民に夢と希望を与えるものであると確信するものであります。また新しい学校を創り、全国や世界から若者が集まってくることは、京都の活性化にもつながるものであります。さらに付言すれば、小学校の跡地のうち、将来用地としての利用の中に、「伝統産業国際学校の設立」を提唱するものであります。

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